がんの治療成績(5年生存率)
生存率に影響する要因は、年齢や進み具合、合併症など様々であり、治療効果を表す指標とは異なります。
1)集計対象
当院におけるがん診療連携拠点病院としての診療実態を把握し、診療に役立てるために治療成績を評価しております。2002年6月以降に「院内がん登録」として登録された症例のうち、集計条件に合致した主要5部位(5大がん)に前立腺を加えた6つの部位を集計対象としています。適用された病期分類(UICC TNM分類)の版により、以下の期間にわけて集計しています。
・2002年6月~2010年診断症例の集計(UICC TNM分類 第6版)
・2012年~2016年診断症例の集計(UICC TNM分類 第7版)(更新日:2022/9/28)
上皮内がん、ステージ0の患者さんは除外されています。また年齢は、15歳以上95歳未満の患者さんを集計対象としています。手術だけでなく、化学療法、放射線療法を受けた症例や、積極的な治療を受けなかった症例も含まれております。
2)解析部位
解析対象はICD-10コードのC00-C96です。(ICD-O-3版準拠)
3)臨床病期別集計
診断された時点における病期の進み具合(臨床病期)は、治療方針の選択や予後に影響を与えます。
公開対象としたデータの臨床病期判明率は、全体で98%以上を達成しています。
4)生存率の起算日(観察をはじめる日)
起算日は、診断日を基準としています。
5)消息判明率(追跡率)
起算日から5年経過時点での消息判明率です。追跡調査は来院情報や、役場への住民票照会などにより行っております。公開対象としたデータの消息判明率は、すべて98%以上を達成しています。
6)生存率算定
生存率の算定はカプランマイヤー法を用い、実測生存率および相対生存率を示しました。相対生存率の算定は、エデラーI法を用いています。
生存率Q&A
Q-1. 生存率とは?
がんと診断された日から、一定の期間経過後に生存している確率を生存率といい、がん医療を評価する為の指標のひとつとなっています。一般的に、治療後から5年経過後の生存率を「治癒」の目安にしており、部位によっては、10年生存率を用いる場合もあります。
信頼度が高い生存率を計算する為には、患者さんの来院情報だけを頼りにするだけではなく、がんと診断された日から、5年(または10年)経過後における消息を把握する生存確認(予後)調査が必要となります。生存確認(予後)調査とは、生存率を計算するために、がんと診断された日から、5年(10年)後の患者さんの消息を確認することです。受診された履歴等を追跡し、一定期間受診履歴のない患者さんについては、役所などの自治体に問い合わせを行うことがあります(住民票照会)。
生存確認(予後)調査の実施した割合によっては、実際よりも高い生存率が計算される可能性もある為、注意が必要です。世界の基準は95%以上の患者さんできちんと生存確認調査(予後調査)を行うことです。
Q-2. 相対生存率とは?
生存率は大きく分けて、「実測生存率」と「相対生存率」とに分けられます。実測生存率とは、死亡原因に関わらず、全ての死亡を計算に含めた生存率を意味しています。つまり、がん以外で死亡した例も含まれます。
がん以外の病気が原因で死亡する可能性に大きく影響しうる要因(年齢や性別など)が異なる集団で生存率を比較する場合には、がん以外の病気で死亡する確率が異なる影響を補正する必要があります。
性別や年齢分布、がんと診断された年が異なる集団同士で、がん患者の予後を比較する為に、がん患者について計測した生存率(実測生存率)を、対象者と同じ性・年齢分布をもつ日本人の期待生存率で除したものを「相対生存率」といいます。地域で行われているがん登録や、生存率を世界と比較する際も相対生存率が用いられています。
Q-3. 臨床病期とは?
がんの進行度(ステージ)は、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無により、0期、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の5段階に分けられるのが一般的です。(部位により分類基準が異なる為、注意が必要です)
数字が大きくなるほど、より進行した状態を示しています。東北労災病院の生存率算出基準では、UICC(国際対がん連合)のTNM分類を用いています。(医師が病期説明を行う際には、学会主導で実施されている、臓器別がん登録の「がん取り扱い規約」による病期分類を用いている場合があります)臨床病期とは、画像診断等で得られた治療前の進行度を示しています。
手術等で摘出された臓器を顕微鏡で調べて、病理組織的に診断された結果による病期を「病理病期」とよんでいます。「臨床病期」と「病理病期」は、異なる場合があります。その理由として、「病理病期」は手術等で摘出した臓器を用いた診断となる為、放射線治療や、化学療法のみを受ける患者さんは、病理病期を算出できません。「臨床病期」で治療法が選択されることになります。
また、化学療法施行後に手術した場合も、リンパ節等への転移に関する情報が不詳となる為、「病理病期」は算出できません。手術後の「病理病期」によって、術後の放射線療法や化学療法が追加されることがあります。当院の計算方法では、「0期」や「上皮内がん」は生存率算定から除いております。他施設の生存率情報を見る際は、「0期」や「上皮内がん」の症例が含まれたデータかどうか注意が必要です。
予後がよいとされる早期がんであることを示す「0期」や「上皮内がん」が含まれた生存率は、それらを含まないデータから計算された生存率よりも高い結果がでる場合があります。
Q-4. 生存率を他施設と比較できる?
当院では、生存率調査を実施するにあたり、全国がん(成人病)センター協議会(全がん協)の公表指針に沿って取り組みました。消息判明率(追跡率)や臨床病期の判明率、外科症例だけでなく内科症例、放射線科症例も全て含んだデータとなっており、各病院のホームページや雑誌等に掲載されている生存率とは、算出基準が異なる場合がありますので、注意が必要です。
生存率の結果に大きく影響する要因として、性別、年齢、初回治療年、対象症例(外科手術例のみ、内科症例も全て含む等)、「0期」や「上皮内がん」の症例が含まれたものか、合併症の有無、消息判明率(追跡率)が95%以上かなど、様々なものが関係します。ですから、生存率が高いほど、治療成績がいいとは一概にはいえません。生存率が算定された根拠や背景を考慮した上で、データをみる必要があります。
Q-5. 標準誤差(SE)とは?
標準誤差とは、生存率集計対象者が選択される際に生じる偶然によるバラツキの大きさを統計学的に表したものです。通常、生存率の標準誤差は、集計対象者が少ないほど、数値が大きくなります。
標準誤差から得られた生存率のバラツキの幅を計算したものを信頼区間といいます。
Q-6. 95%信頼区間って何ですか?
標準誤差から得られた生存率のバラツキの幅を計算したものを信頼区間といい、通常、95%信頼区間で表現します。95%信頼区間は、生存率±1.96×標準誤差で表され、その生存率は偶然の変動により、95%の確率でその幅の間を取り得るものと解釈します。
信頼区間の幅が狭いほど、偶然の変動による影響が少ない結果といえます。集計対象者が少ないと、幅が大きくなります。信頼区間の幅を狭くするためには集計対象者数を増やす必要があります。